朝早く、ボランティアのちーさんの携帯が鳴りました。
「あれ?知らない番号だわ…もしもし~?」
「あ…もしもし、犬猫のボランティアさんですか?」
ちーさんは、捨てられた犬や猫を保護して、新しいお家を探してあげるボランティアをしています。だから、この電話は、きっとかわいそうな犬や猫のこと!とピンときました。
「はい、そうですけど・・・どうされました?」
「あの…今、トラックで配達に出発しようとしたら、荷台に子猫がいるんです。配達の時間が決まってるから困っちゃって…保護してもらえませんか?ぼく、トラックの運転手なんです。」
「それは大変!でも・・・私だって急にこんな朝早くから…今日の予定もいっぱいあるし…子猫は元気そうですか?どんな大きさの子?」
「もぞもぞ動いてはいるけど…目が開いてなくて、とっても小さいです」
「ええ?目が開いてない?ひょっとして子猫どころか、生まれたばかりの赤ちゃん?だったら、一刻も早く保護してあげないと!」
これは大変なことになったぞ、とちーさんは思いました。
赤ちゃん猫は、とても敏感で、寒すぎても暑すぎても、ちょっとお腹がすいてものどが渇いても…あっという間に弱ってしまうんです。
「こちらに連れてきてくれたら、お世話しますよ。」
「え、でも、ぼくは大切な配達があるんです。今すぐ出発しないと!」
「私だって、仕事や、約束や、やることがあるんです。急に言われてもすぐにそちらにとりに行くことなんてできないですよ…」
「・・・・じゃぁ、どうしようもないですね・・・」
トラックの運転手さんは、悲しい声で、電話を切りました。
ちーさんだって、心が張り裂けそうです。
切った電話の遠くから、赤ちゃん猫の「にゃぁにゃぁ」という小さな鳴き声が聞こえていたんです…
携帯を持ったままちーさんは、トラックの運転手さんが今から配達するといっていた方向を頭の中で思い浮かべました。どうしよう、どうしよう、何とかならないかな。誰か…誰か、手伝ってくれる人はいないかな…と。そして、「あっ!」と声をあげました。慌てて電話をかけました。
「もしもし?運転手さん?ゆめが丘保健所ってわかります?猫ちゃん、そこに連れてってもらえませんか?」
「え?保健所に?」
「そう、そこにね、知り合いの獣医さんが働いてるんですよ。その人に保護してすぐにお世話してもらうよう連絡しますから!」
「うう~ん、場所はずいぶん近くだけど…配達の予定はもう遅れ気味で…ぼくが届けに行くわけには…」
運転手さんはずっと考えて、「わかりました。何とかします。」とだけ答えて、電話を切りました。
ちーさんは、ゆめが丘保健所で働いているしー先生に電話しました。
「しー先生、朝からごめんなさいね。今から、赤ちゃん猫が保健所に行くから、ついたらたっぷりミルクを飲ませてあげて!」
しー先生にお願いしたあとも、ちーさんは、運転手さん、配達どうしたんだろう、赤ちゃん猫は本当に保健所に行けるのかな… と心配でした。
すると、そこに、また電話が!
「もしもし!運転手さん?どうなりました?」
「今ね、猫ちゃん出発しましたよ。保健所に向かってますよ。」
「ええ?出発した?向かってる?」
「着いたらお世話お願いしますね!ぼく、配達行ってきます!」
しばらくすると、しー先生から電話がかかりました。
「ちーさん?赤ちゃん猫たった今つきましたよ。すぐにミルクをあげるわね。もう、びっくりしたわ・・・赤ちゃん猫、タクシーに乗ってきたわよ!」
「え?タクシー?」
「そう、タクシーに乗ってここに来たわ。ひとりでタクシーに乗ってきたのよ!」
なんと、赤ちゃん猫は、小さな箱に入れられて、タクシーに乗ってたったひとり?でやってきたのです。小さな、小さな赤ちゃん猫は、生後2,3日、100gもない子でした。「私もね猫は大好きなんですよ。でもね、お客さんとして乗せたのは初めてだよ。しかもこんなに小さなお客さんは新記録だね。」と、タクシー運転手のおじさんは、にこにこ笑っていたそうです。
まだ、目も開いてなかった赤ちゃん猫は、トラックの運転手さんの心配そうな顔も、タクシー運転手さんの優しい顔もわからなかったでしょう。しー先生がおいしいミルクを急いで作ってくれたことも覚えていないでしょう。
でもね、みんながあなたの幸せを祈って一生懸命してくれたことは、忘れないでね。
安心して、大きくなってね。
と、ちーさんは、携帯電話を持ったまま、お家の窓からゆめが丘のほうを見ていました。